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Deep Tech起業家直伝!トレンドに踊らされず、地に足を着いた事業を創る思想法


「ディープテックの起業は時間がかかる分、参入障壁も高くなります。中道さんのように研究の社会実装に真摯に向き合う起業家は、短期トレンドに左右されない強さを持っていると感じます。」
Deep Tech起業の本質は、トレンドに踊らされず地に足のついた事業を創ることです。AGRI SMILE代表の中道貴也氏は、京都大学農学研究科での研究を活かし農業分野で起業。周囲の否定的な声にも関わらず事業を軌道に乗せた経験から、研究の社会実装におけるリアルな道のりと情熱の源泉を語りました。
シードVC「THE SEED」は、2025年6月28日に「スタートアップ関西 2025 春」を開催しました。
本記事では、イベントで行われたセッション3:研究セッション「大学時代の研究を活かして起業~社会実装までのリアルな舞台裏~」についてまとめています。「やめておいたら?」という周囲の否定的な声にも関わらず、大学時代の研究を活かし農業分野で起業した中道氏。一般的に難しいとされる分野で、いかにして事業を軌道に乗せ、今なお挑戦し続けているのでしょうか。その情熱の源泉と、研究の社会実装におけるリアルな道のりをお話しいただきました。
登壇者
・株式会社AGRI SMILE 代表取締役 中道 貴也 氏
・モデレーター:THE SEED General Partner 廣澤 太紀
【登壇者プロフィール】
株式会社AGRI SMILE 代表取締役 中道 貴也 氏
2017年京都大学農学研究科修了。
在学中は地元兵庫県丹波市に農業で貢献したいという思いから、農業資材の研究に取り組んだ。(対象資材は「第25回地球環境大賞」にて「農林水産大臣賞」を受賞。)社会ではビジネスの観点から農業を活性化させたいと考え、新卒で東証プライム上場企業の経営企画職として入社。その後、農業を通して各地域をより魅力的な場所にしたいという思いから、2018年8月、株式会社AGRI SMILEを設立。全国の150地域を超える産地連携や研究開発を主導し、Forbes 30 Under 30 Asia 2022 に選出。
【AGRI SMILE】
創業7期目、従業員80名、資本金約9.6億円、国内だけでなく海外においても事業を展開する農業領域のスタートアップ企業。
「テクノロジーによって、産地とともに農業の未来をつくる」を経営理念に最先端バイオテクノロジーによる生産技術、データサイエンス技術、産地のブランディング支援を展開。脱炭素社会の実現と環境保全型農業の実現が両立可能な画期的生産技術として期待される、農業残渣を原料としたバイオスティミュラント資材を、国内で初めて確立した産業の変革を目指すDeep Tech企業である。
■なぜ「起業」という選択肢を選んだのか-「情熱」の源と原点-
廣澤: 大学時代の研究を活かして起業されたと思うのですが、特に農業分野での起業は難しいと言われる中で、周囲から「やめておいたら?」と止められたりしませんでしたか?
中道氏: そうですね、むしろ好意的な話はあまりなかったかもしれませんね。「この領域でやるのは筋がいいね」とか「うまくいきそうだね」といった話は、逆に受けたことがないくらいです。ほぼすべて否定的な意見でしたね。
廣澤: なぜ、その領域での起業が難しいと言われるのでしょうか?
中道氏: シンプルに成功事例がないからだと思います。農業領域のスタートアップで大規模に成功した事例はまだほとんど見当たりません。あるいは日本だと創薬系でペプチドリームさんのようなプラットフォーマーはいますが、本当に自社で製品や薬のようなものを開発して製造まで担い、ゼロからファイナンスして成功した事例もあまりないのではないでしょうか。農業とディープテックの組み合わせは、さらにハードルが高いと見られがちでした。
廣澤: 確かに、私がお会いした頃の中道さんは「人生をかけて1兆円の農業の会社を作る」と熱く語られていたので、一度就職を挟んでいることが個人的には意外でした。なぜ最初から起業しなかったのですか?
中道氏: 当時は、大学院も保守的な雰囲気で、スタートアップに進むようなキャリアはほとんどありませんでした。その中で、リスクを最小化しながらリターンを得る「ミドルリスク・ミドルリターンみたいなキャリアがないかな」と探していたんです。そんな時、ある会社から「うちの会社でなら子会社の社長を目指せる」という話をいただいたのが就職のきっかけです。
廣澤: なるほど。まずはリスクを抑えた形で経営を経験しようと。しかし、実際に入社してみて、1年で退職し起業の道を選ばれたと思います。そこにはどんなギャップがあったのでしょうか?
中道氏: 当時、社長室というポジションで勤務するなかで、ギャップはありませんでしたが、実際に経営されている方々とお話しすることで自分が真にやりたい事業の解像度を上げることができ、自分自身でチャレンジすることにしました。前職の社長に大変お世話になり、純粋に憧れた部分もあるかもしれません。
廣澤: その「本当にやりたいこと」、つまり農業分野で解決したい課題とは、具体的に何だったのでしょうか?
中道氏: 実家が農業を営んでいた原体験が大きいです。農業は天候というコントロールできない変数に大きく左右され、非常に不安定です。虫や病気の被害がなくても、天候不順で収量が激減することも多々ありました。生産者の方々の苦労を目の当たりにする中で、この不安定さを解決したいという強い思いが芽生えました。
廣澤: その課題意識が、大学での研究とつながったのですね。
中道氏: はい。僕が大学院で研究していた頃は、遺伝子レベルで植物の作用メカニズムを解明する技術が非常にホットになっていました。当時「バイオスティミュラント」という言葉はありませんでしたが、農薬のように病害虫を「殺す」のではなく、植物自体を強くすることで気候変動などに適応させる「植物に刺激を与えて改善する」という研究が行われていました。特に、品種改良には長い時間がかかりますが、資材であれば即効性のある対策が可能です。実際に生産者の方の畑で試した際に効果がはっきりと見え、「この技術を社会に実装したい」と強く思ったことが起業の原点です。
■研究を社会実装するためのリアル-挑戦と困難-
廣澤: 農業と研究、どちらも事業化が難しいと言われる中で、実際に何が一番大変でしたか?
中道氏: 収益化が最も大変でした。誰にどんな価値を提供し、それが毎年継続できるのか。シンプルなことですが、農業と言ってもかなり広いため、事業モデルの構築が非常に難しかったです
廣澤:そこで中道さんはJA(農業協同組合)を主要な顧客とする戦略を選ばれたんですね。
中道氏:JA様との連携で事業の土台を作ろうと考えたんです。JA様は、生産者の皆様が組合員となり、出資によって運営されている協同組合です。地域の農業を支える重要な存在として日々活動されています。そのJA様と連携させていただくことで、生産者の皆様へより大きな価値を提供できると考えております。具体的には、より多くの生産者の皆様に当社プロダクトをご活用いただくことを目指しており、JA様との連携により大規模かつ効率的に事業を推進することが可能となります。
廣澤: そのJAや農家さんとの信頼関係を築くために、具体的にどのようなことをされたのでしょうか?
中道氏: 信頼を得るためにやっていたわけではないですが、結果的にそれにつながったことでいうと、とにかく圃場に足を運んでいました。そもそも、その対象に好奇心を持てるか、「好きかどうか」が一番大事ではないでしょうか。ミカンの栽培法による味の違いや、肥料が植物にどう影響するかに心から関心を持てたこと、そうした姿勢が結果的に信頼につながったのだと思います。
廣澤:私が覚えている中で印象的なのは、中道さんは千葉で大きな台風被害があった際に、週末にレンタカーを借りて、朝早くから被災した農家さんのハウスの復旧を手伝いに行かれていた時期もありましたね。
中道氏: ええ。知り合いの生産者の方が困っているから助けに行くという感覚でした。
廣澤: そうした地道な活動が、どのようにして事業の軌道に乗っていったのですか?
中道氏: DXについては現場で「こういうことで生産性が上がらなくて困っている」という具体的な声を聞き、「では、こういうプロダクトがあったらどうですか?」と対話をベースに提案を重ねていきました。すると、「数百万円の規模で複数年契約しよう」といった形でご提案してくださるJA様が何件か現れたんです。予算をとって開発するいわゆる受託開発に近い形でした。ニーズが明確にあるからこそJA様は開発費を払ってくれますし、私たちはその後の展開も見据えることができます。農業資材については、試験場で検証してから生産者に導入することが一般的です。栽培方法が統一されている産地では、一度採用されれば、その産地全体で使われることもあります。各地域の栽培方法に合わせて「このタイミングで、この農薬と一緒に使えば効果が出ます」といった具体的な運用方法まで踏み込んで提案することで、バイオスティミュラントの導入を後押ししています。
廣澤: 各地域の栽培方法に合わせた細やかなアドバイスまで行っているからこそ、JAからの信頼も厚い、ということなんですね。
中道氏: おっしゃる通りです。バイオスティミュラントがどのようなメカニズムで作用するのかの詳細な説明から、既存の農薬とどのように組み合わせるべきかといった実践的なアドバイスまでコミットすることで、多くのJA様にご導入いただけているのだと思います。
■起業を目指す学生へメッセージ-
廣澤: 学生時代に「これをやっておけばよかった」ということはありますか。
中道氏: 正直、起業する上で役に立った特定のスキルというのはあまり思い浮かびません。それよりも、学生時代に「一生懸命何かをやる」こと、そして「関心があること、好奇心を持てること」に徹底的に向き合った経験の方が重要だと感じています。例えば、仲間と朝会を開いて自分の研究の仮説をぶつけ合うような、研究テーマに没頭した経験こそが、今の自分の土台になっていると思います。
廣澤: なるほど。では、よく言われるようなビジネス書を読む、といった準備についてはどうお考えですか?
中道氏: それこそが何か幻想な気がしますね。ビジネス誌や自己啓発本をたくさん読んだからといって、うまくいくわけでは全くないと思います。それよりも、周りの人からどれだけ応援されているか、ということの方がよほど大事な気がします。
廣澤: ありがとうございます。起業という道が、スキルや知識以上に、その人のあり方自体が問われる世界だということがよくわかりました。少し視点を変えて、キャリア全体の選択についてお伺いします。中道さんの周りにも、起業とは違う道で活躍されている方がたくさんいらっしゃると思いますが、学生のキャリアの多様性についてはどのようにお考えですか。
中道氏: ええ、同級生全員が起業すべきだったとは微塵も思いません。「人と接するのは得意ではないけれど、研究と向き合うのは好きだ」という研究者もたくさんいます。必ずしも全員が起業を選ぶべきではないでしょう。 ただ、今の日本では、博士号を取っても大して優遇されなかったり、良い研究をしても給料が上がらなかったりと、研究者が正当に評価されているとは言えない現状があります。これは、研究経験のない方が経営層に多いため、研究の価値がイメージしづらいからではないかと感じています。だからこそ、私のように研究に関わってきた人間が自ら会社経営を担い、研究者の待遇改善を進めていく、という形も理想的だと考えています。
廣澤: そうした現状も踏まえた上で、改めて、キャリアに悩む学生が「起業」という選択肢を考えることについて、どう思われますか?
中道氏: 若いうちだったら、別に失敗しても、やり方さえ間違えなければ大きなミスにはならないと思います。私自身、25歳で起業しましたが、「まあ、ミスってもいいんじゃないかな」という感覚でした。若いというだけで応援してくれる人は絶対にいますし、それは物事への向き合い方次第です。本当にやりたいことがあるのなら、期間や撤退ラインを最初に決めた上で、挑戦してみる価値は十分にあると思います。
廣澤: お話を聞いていると、やはりご自身の「好き」という気持ちが原動力になっていると感じます。それでは最後に、これから起業を目指す学生たちへメッセージをお願いします。
中道氏: トレンドはいつだって変わります。かつてはSaaS、今はAIやディープテックが注目されていますが、そういった表面的な流行に踊らされるのではなく、「ちゃんと利益を出して、関わる人に対価を払う」という、地に足の着いた考え方を持つことが重要です。周りから「儲からなさそうですよね」と言われても、知ったこっちゃないですし、そんな話は終わりでいい。自分たちが本当にやりたいことを見つけ、その「コアな部分」を深く考えられる人であれば、起業には多くの良い面があります。私もまだ道半ばですが、起業したおかげで、他の選択肢では絶対に得られなかった経験をしています。チャレンジしたい方がいらっしゃれば、ぜひ臆することなく挑戦してほしい。頑張ってください。
■「スタートアップ関西」について
2018年に創設した「スタートアップ関西」は、関西の学生が、スタートアップ・起業に触れる入り口を作るためのコミュニティです。起業家やVCとの接点や、スタートアップに関心のある同世代が情報共有できるコミュニティを作ることで、起業やスタートアップを目指す学生の若い才能を後押しします。
■「THESEEDTALK」について
若き起業家に向けた日本一間口の広い相談会です。
プレシード・シードステージで投資を行うTHE SEEDとの個別ミーティングを、誰でも下記のリンクから予約できます。起業を考えている or 既に起業している方とお話しする機会をいただければと思っているので、ぜひお気軽にご予約下さい。
よくある質問
ディープテック 起業 始め方
ディープテック起業は、大学や研究機関での技術シーズをベースに、社会課題の解決を目指すアプローチです。まず研究成果の市場ニーズを検証し、技術の実用化に向けたロードマップを策定します。研究者と事業開発人材のチーム構築、知的財産の確保、長期視点での資金調達計画が重要です。
大学 研究 起業 社会実装
大学の研究を社会実装するには、研究成果と市場ニーズのマッチングが不可欠です。技術の独自性を知財で保護しつつ、顧客候補へのヒアリングで実際の需要を確認します。大学のインキュベーション施設やGAPファンド、NEDOなどの公的支援を活用し、段階的に事業化を進めるのが一般的です。
農業 スタートアップ 事例
AGRI SMILEは京都大学農学研究科出身の中道貴也氏が創業した農業スタートアップです。地元兵庫県丹波市への農業貢献を志し、在学中の農業資材研究を事業化しました。一般的に難しいとされる農業分野で、研究知見を活かした独自アプローチにより事業を軌道に乗せています。